こら

内側に力を注ぎまくった結果、外側に拡張していく現象を体感している。いろんなことを突き詰めると(突き詰めてるってほどでもないのだが)、同じ方向に突き詰めてきた人たちと出会うことになる。そうやって出会った人たちと私とは、見ている方向は同じでも、おそらく互いの生活に興味がない。少しだけ楽だ。

人との縁は必要最小限にしたいと常日頃思っていて、だからこそ自分の好きなもののことばかり追いかけているけれど、そのせいで誰かと出会ってしまうものなのだろう。変なの。人間は60億人くらいいるらしいから仕方がない。

何の脈絡もなく、頭が良くなりたかったな、と思った。人並みに他人に興味を持てるようにもなってみたかったな。

 

 

先日、某ファストファッションの試着室であーでもないこーでもないと着替えまくっていたら、カーテンの外から「ちらっ! ちらっ!」といういたずらっぽい声がした。子供の声だった。男の子かなと思った。

「ちらっ! ちらっ!」という笑い混じりの声は少しずつ近づいてきた。嫌な予感がした。心の準備をした。あの子供がここのカーテンを「ちらっ!」としてきたらどうしたらいいんだろう。何をすればいいんだろう。何を言えばいいんだろう……。

ほどなくして、幼児が「ちらっ!」と言いながら、私のいる試着室のカーテンを「よう女将さん、やってるかい!」みたいな調子で捲り上げた。目が合った。

その瞬間まで、ついにリアクションを決められなかった私の口から咄嗟に出た言葉は

「こらっ」

だった。小声で、やや低めの声で言った。幼児は真顔でそそくさと逃げていった。少しホッとした。

試着室に持ち込んだ服をハンガーにかけ直しながら、一人で笑った。

「こらっ」って。今時「こらっ」て。「こらっ」て最近言ったことのある人ってどれくらいいるんだろう。まさか自分の口から出てくるとは思わなかった。