偽名

偽名が欲しい、と思う。それも、社会的に使える偽名。住民票の名前と仕事の名刺や履歴書に書いてある名前が違っていても、誰も気にしないような社会にならないだろうか。自分自身というメインアカウントのみで生活のすべてを遂行することを、とても難儀に感じる。

美容室に偽名で予約してみたり、ファミレスなどで偽名を書いて順番待ちしたり、そういうことをやってみたことはある。それはそれで楽しかった。

でも、本当に偽名を使いたくなるのはもっと別の場面だ。

例えば、本当に怖い気持ちになったとき、私は私の名前を言いたくない。よくある名前なのに言いたくなくなる。そもそも名乗るのは戦う前の仕草だったらしいし(「やあやあ我こそは」というアレって本当なんだろうか)、名前を言わなければならない場面とは戦いの時なのではないか。

そういうときに、スッと適当な名前をでっちあげて名乗ることができたならどれほど気が楽だろう。私は頭がうまく働かないので、焦っているときや緊張しているときは一瞬で名前をでっちあげることができない。

ただし、事前に周到に用意しておけばできる。そういうときはいかにも「そういうふうに呼ばれて育ってきました」みたいな顔つきをするように心がける。余談だが、人の名前を聞くと「ああ、確かにXXXって呼ばれて育った顔をしているなあ」と思うことがたまにある。あれは単なる錯覚だろうか、それとも。

ああ、公的な偽名が欲しい。公的な偽名でやりすごしたい。役場で偽名を登録して、それを本名と紐付けしておく……というやり方ではできないのだろうか。本名を変えたいのではなくて、あくまでもう一つの名前が欲しい。そして、それを使って生活したいだけだ(しかも相当自然な「名前」っぽい名前)。

名乗る時、それは初対面の自己紹介の時だろうが、何かの面接だろうが、常に戦いの時である。そんな時、私は本当の名前を持ち出して戦う必要があるのか真剣に考えている。公的な偽名なんてものがあるとするなら、それを使いたい。

保身に走っているのかもしれない。しかし、身くらい守ったっていいだろうがよ……。

毎日秋になったことを喜んでいるわけですが、ここまできてようやく、すべてがスーッとよく通るようになりました。

夏、特に八月の後半はなんでもかんでも「ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」という感じで息をするのも精一杯でしたが、ここ数日はなんでもかんでも「スッ」「スッ」という感じで、何かがさりげなくやってきては何かを残してどこかへ消えていくのでした。

さて今日もスッと何かがやってきました。

ワーーッ。ついに来ました。本当に来ちゃいました。ウワーッ。態勢が整うまで今しばらくお待ちください。