休まらない

心が休まるというのはどういう感覚なのかわからなくなっている。眠れば体が休まるのはわかるけれど心はどうやって休ませるのだろう。様々なやり方で(たとえば趣味や医療で)ドーピングしながら毎日なんとかやり過ごしている。生きているうちは心が休まることはないのかもしれない。銀行の残高が増えても気の置けない友人と旅に出てもどんなに着飾ってもメイクを変えて鏡の中の自分がいつもより若干可愛く見えてもどうにもならない。

心を亡くすと書いて「忙しい」というのはよく聞く話だ。でもそんなことないと思う。忙しくても体が生きている限り心は死んでくれない。瀕死にはなっても易々と喪われたりしない。それを苦しいと思うか嬉しいと思うかは人によるだろうが少なくとも今の私には苦しい。現状、心の存在を忘れる一番いいやり方は眠ることだと思うから今日も私は眠る。

 

心を休める方法なんてこの世のどこにもないんじゃなかろうか。だとしたら、せめて神経を張り詰めるのをやめたい。交感神経を完全に切ってしまう方法はないだろうか。

交感神経のはたらきに関しては、いろいろ習った。一番印象に残っているのはFight or Flight(これを「闘争か逃走か」って訳した人、絶対ドヤ顔してただろうな)という言葉だ。動物は、何か恐ろしいものと対峙したとき、戦うか逃げるかするためだかなんだか知らないけれど、瞬時に交感神経がメキメキと動き始めて、体が緊張状態になる……とかなんとか、もう私が説明するのも大変だし不正確だろうから各自しかるべき資料にあたってください。

日常的に緊張している私は、常に恐ろしいものと対峙しているに違いない。目の前に大蛇が現れることも、刃物と殺意を持った人間が目の前に現れることも、ありがたいことに無い。それでも毎日毎日じわじわと緊張状態が続く。人と対峙するだけで緊張する。人と対峙することを想定して準備するだけで緊張する。そうして緊張しつづけて、疲労の程度があるレベルを上回ると手が震えてくる。全て終わって自室のベッドに横になっても、身体中が重いのに弛緩する感覚もない。副交感神経が仕事を放棄しているのではないかと思う。

それで、その「交感神経を完全に切ってしまう方法」というのはおそらく物理的にいろんなところをちょん切ってしまうしかないのだろうけれど(そんなことできるのかしら)、実行すると心臓が止まってしまう。いずれにせよ、あまり現実的ではない。

副交感神経をバリバリにするしかないのか(副交感神経をバリバリって、感覚的に変だ)。

wikipedia先生によると、副交感神経がバリバリになると涙腺から分泌するらしい。涙腺から分泌、って要するに涙が出ることなんだろうけれど、心当たりはある。なにかが限界に達するとなぜか涙が出てきてしまうものだ、と最近思い知る機会が増えた。そういうときは限界に達した交感神経が行き場をなくして、ようやく副交感神経がのそのそと台頭してきているのだろう。遅いよ馬鹿野郎。しばらく副交感神経しか使いたくないよ馬鹿野郎。せっかく体の持ち主が毎日ちゃんと湯船に浸かってちゃんと食べてそれなりに規則的な生活してんのに。

緊張したくない。生きてるだけで緊張してる。とにかく日々緊張している。休まらない。どうしようもないからとりあえず眠る。私の副交感神経が仕事をするのは眠っているときだけなんだろうな。