きうくつ

めっちゃ辛いときに

「どうしたんですか」

と声をかけられて、しまった、と思った。気持ちを隠すのを忘れていた。さてどんな言い訳をしよう、などと考えていたら、

「なんか微笑んでましたね」

なんて言われてしまった。おふざけの、日常会話の、軽口の。そんな調子だった。しかし、これっぽっちのことで私の頭は真っ白になった。

常に目の前に鏡を置いているわけじゃないから、実際どんな風に見えていたのかはさっぱりわからない。ただ、絶対に、自分の中では微笑んでなんかいなかった。

この顔のどこがどう微笑んでいたのか教えて欲しかったけれど、面倒なのでやめた。代わりに、ふふふ、思い出し笑いですぅ〜とか適当なことを言っておいた。今度こそ笑ったつもりだったけれど、ちゃんと笑顔に見えただろうか。

お札に印刷された人の顔に折り目をつけて、角度を変えると、お札の人が笑ったり悲しんだりしているように見える。笑う諭吉、笑う樋口、笑う漱石。昔よくやった遊びだ。

わたしの顔が笑っているように見えたのもそれだけの話かもしれない。折り目がついた顔の角度に名前がつくなんて。

 

目を開けていても何も見ていないことがある。正確には、見えているけれども、視覚以外のことに意識を割いている状態だ。

目を動かさないので、一点を凝視しているように思われてしまう。何見てるの?と訊かれて、ようやく我に帰る。何も見てないよ、と答える。慣れている人はこの答えで納得してくれる。慣れていない人は訝しげな顔をする。

視力があり、目を開けている人は常に何かを見ている。それは決して間違いじゃないけれど。

 

窮屈だ。

窮屈。きゅうくつ。意味。

dictionary.goo.ne.jp

1 空間や場所にゆとりがなく、自由に動きがとれないこと。また、そのさま。「窮屈な服」「座席が窮屈になる」
2 思うようにふるまえず気詰まりであること。また、そのさま。「お偉方ばかりで窮屈な会だ」「窮屈な思いをする」
3 形式張って堅苦しいこと。融通のきかないこと。また、そのさま。「窮屈で面白みのない男」「窮屈に考えすぎる」
4 物や金が不足してままならないさま。「窮屈な暮らし」 

どの意味だろう。

自分で窮屈にしておいてこんなこと考えるのは、馬鹿馬鹿しい。でも窮屈にしておくことを選んだのは私だ。こうすればあらゆるコストが減る。大きな事故を防ぐために小さく細かく身を削る。枠を作っておく。行動範囲を決めておく。

自分を縛っておけば動かなくていい。そんなこと一番最初に考えた奴は誰だい。

何事も良し悪しかい。何か良かったかい。悪くなかったら良いのかい。まあそれはそうだね。贅沢言うもんじゃない。私のエネルギーは限られてるんだからコストは少ないほうがいい。それでも。

 

笑ってないのに笑ってると言われたり、見てないのに見てると言われたりする。悪意のない誤解であることはわかっている。それが窮屈だなんて贅沢だろうか。ところで、贅沢ってなんだっけ。

やめよう、私は国語の授業をしたいわけじゃないんだ。

 

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