拝啓 今日、わたくしに道を訊いてきたおじさま

 

おじさま、お元気ですか。わたくしはあの時の人間です。

他にもたくさんの人が歩いていたところに、あなたはわたくしを呼び止めましたね。よりによって、トゲアリトゲナシトゲトゲみたいな服装のわたくしを呼び止めましたね。

おじさまの声色や仕草、表情や持ち物のひとつひとつから、かなり切羽詰まっているように見受けられましたので、わたくしも思わず立ち止まらずにはいられませんでした。

しかし、おじさまも引きが良いのだか悪いのだかよくわからないお方ですね。わたくしは、今日はなんとなく他の街をぶらぶらしたい気持ちになったので、ちょっとだけ遠出してきたところだったのです。

「XXに行きたいんですけど、どこだかわかりますか」とおじさまは仰いましたね。XXはちょっとした観光地ですし、わたくしもXXがどこにあるか、おおまかには理解しておりましたが、やはり地元民ではないわたくしにはハッキリとした道案内はできそうにありませんでした。

そこで、正直に「XXですか。私、ここらへんの人じゃないのでよくわからないんですけど」と申し上げたら、おじさまは「ああ、そうなんですか……」と肩を落としていらっしゃいましたね。わたくし、それを見ていたらなんだか居ても立ってもいられなくなってしまいました。

「せっかくですし地図でも見ますか」とGoogleMapのアプリを立ち上げて、だいたいの場所と方角を二人で確認して、「XXはYYにあるはずなので、あちらのほうだと思います」と該当する方角の道を指差しました。

おじさまは「あちらですね。わざわざご親切にありがとうございます」と、すぐさまどこかへ行ってしまいましたね。わたくし、その時は「なんとかなったかなあ、よかったなあ。また徳を積んでしまった」なんて思いましたよ。

でもねおじさま、わたくし、あの場から10メートル歩いたあたりで、案内板を見つけてしまったのです。そうしたら、わたくしが指した方向がちょっとズレていたことがわかりました。かろうじて真逆ではなかったのですけど、あの数分後に、また切羽詰まった様子でどなたかに道を訊ねることになってしまったかもしれないと思うと……。

わたくし、全然親切ではございませんよ。差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした。

おじさま、あの後、無事XXに辿り着けたでしょうか。あの……僭越ながら、これからは、暇そうな人よりも、忙しそうでも地元民っぽい人に声をかけたほうがよろしいかと存じますよ。マジで。

 

かしこ

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