切り落とされた馬のしっぽ

ゆうべ、寝る直前、世界にあらゆる境界線が生まれ、それはそのままヒビになって、なにもかもがパリパリに割れてしまった。

本当によくわからなくなった。何が好きか何が嫌いか、楽しいのか疲れてるのか、何もかもよくわからなくなった。テンションが上がらない下がらない。今日より淡々と終わった一日は無いと思う。

異常か正常か、並べて考えてみるとどうも正常に近い感じがする。私の感覚で正常なんて本当に正常かわからないけれど、なんとなく正常に近い。

でもこの強烈な違和感はなんだろう。変なの。

 

子供の頃、近所にとても大きな犬がいた。その家の前を通るたびに眺めたり、声をかけたり、手を振ったりしていた。

私が大人になる頃には犬は消えていた。

世界のつくりが冷たいのか、私が冷たいのか。あるいはその両方か。

とにかく、こういう冷たさが、急に私自身に向けられた感覚がある。むしろ今までよくこうならなかったなと思う。

自分のことさえも、全部よくわからない、全部どうでもいい。そうなんですね、そうなんですね、そうなんですね。適当な相槌で私の気持ちは跳ね返されていって、私の中には何も伝わってこない。筋肉のこわばりや体温の微妙な変化、喉の痛みや渇きや空腹、その他もろもろ一通りの不足や苦痛が全部上滑りしている。

 

だからって何も悲しくないし辛くも悲しくもない。気分はフラット極まりない。何これ。どうなってるのか自分でもさっぱりわからない。

あれほど楽しみにしていたCDが届いたのに、こんなに何も思わないなんてどうかしている。今すぐ聴きたいという気持ちがない。どうしちゃった。どうしちゃったんだ。

ついに自分で自分にご褒美を用意することもできなくなったみたい。そのご褒美によって上下するはずの気分がどっかにいっちゃったのだ。どうすんだこれ。

 

負荷をかけたら何かが戻ってくるかなと思って負荷をかけてみた。何にも起こらなかった。負荷があっても淡々と一日を終わらせられることを証明しただけだった。

これが普通ってやつなの? 何の問題もない一日ってこういう感じ?

正解の一日がこれなのかな、なんて思ってみたら案外しっくりきてしまった。私にとっては正解がこれだったんだな。ずいぶんと遠回りしたけれど正解してしまった。

本当にそれが正解なのかよと自分に問いかけてみても、そう思うんならそうなんじゃないですか、としか言わない。本当はちょっと悲しいくせに。いやいやいや、そんなことない。ちょっと悲しいポーズをしておくことで自分に一貫性を持たせようとしているだけだよ。本当はなんとも思ってなくて、やっぱりこれが正解なんだよ。

じゃあ不正解ってどんな一日なの。それは今までの人生の全部だよ。

 

切り落とされた馬のしっぽみたいな気持ちになっている。はたして、切り落とされた馬のしっぽに感情はあるか。