サンダル

 

二、三年前、気分が上がっちゃっている時に、サンダルを買ったことがある。

三千円くらいの、ワンシーズンで履き潰す前提のサンダルを探していた。それならしまむらにでも行けばよかったのに、何故かナントカ百貨店に行ってしまった。

 

お店の前を通りがかったときに、何気なくチラッと見てしまったのが運の尽き。いかにも歩きやすそうなのに、デザインも良い感じのサンダルがあった。

「フーン。見てやらなくもない」みたいな顔をしながらお店に入って、店内をぐるっと見て回った。結局、件のサンダルの前に戻ってしまった。

おそるおそる値札を見る。予算を余裕でオーバーしていた。それでも手が伸びてしまった。

 

色は2種類あった。どちらも良い色だった。交互に手にとって、全ての角度から眺めた。それを二、三回繰り返して、一旦は両方を手放した。

冷静になれ、と私の半分が言っている。もう半分は、試着しろと言っている。履くだけならタダなんだから、とも言っている。

 

私の半分ずつが戦っているとき、遠くからカントリーマアムっぽい雰囲気の店員さんが声をかけてきた。

よかったら試着もできますよ。

そんなこと知ってる。知ってるよ、たいていの靴屋さんは試着できるよ。知ってる。知ってるから今、私は戦ってるんだよ。知ってるんだよ。知ってるんだよ。知ってる……。

朦朧とする意識。

意識が戻りきらないまま私は「じゃあちょっと履いてみてもいいですか」なんて言って、それなりの笑顔で足のサイズを申告した。店員さんは、手際よく2Xcmの、色違いのサンダルを箱から出してきて、椅子に腰掛けた私の前に並べた。

まず片方。ちょっとギラギラしたカラーリングの方。実を言うと、最初はこちらに心惹かれていた。履いて立ち上がってみる。歩きやすさはまったく問題ない。これ歩きやすいですねー、可愛いですねー、なんて店員さんと話した。

しかし、全身鏡を見てみたら、全然よくない。色が私を拒絶していたのだ。一気に気持ちが冷めた。だめだ、これは本当にだめだ、今すぐ脱がなければと思った。

再び椅子に腰掛け、今回はハズレか? なんて思いながらギラギラしたサンダルを脱いだ。

今度はもう片方の、使いやすそうな色のサンダルを履いてみた。立ち上がって、鏡で全身を見た。

色も形も何もかもが完全に私の支配下にあった。

ああ。これは。再び意識が朦朧とする。

気づくと、そのサンダルを買っていた。しかも、今から履いて歩けるようにタグを切ってもらって、その日に履いてきたサンダルを持って帰るために袋に入れてもらって、店の中で履かせてもらった。店員さんとにこやかに挨拶を交わして店を出た。

 

歩きやすいことこの上ない、そして私を拒絶しない、私を引き立てる気満々の色をもったそのサンダルは、今でも一番お気に入りだ。

サンダルは物だから、いつかは壊れてしまうけれど、買ったのは私。私の足を守って飾るのがこの子の役目。そしてあの日、あの靴屋で、あのサンダルがこの役に立候補したのを私が見逃さなかった。それだけでもう十分に「お気に入り」だ。かわいい。

こんなにも私に尽くしてくれるサンダルなので、さすがに最近は薄汚れてきたようにも見える。それでもまだまだ壊れる気配がない。

靴としてかなり良いのに、私だけのもので、健気で、とっても偉い。私は君が本当に潰れるまで大事に大事に履いてあげよう。そういえば今日も履いてたな。やっぱり良いサンダルだ。うん、ひとまずは今年の秋までよろしくね。